赤い大地への憧れ 第二章 赤い大地からの再出発

第一章では、『まだ見ぬホテルへ』の解説に触れながら、赤い大地への憧れを確認しました。

“赤い大地を駆け抜ける旅”をテーマとした作品の語り手は、走り続けるという過剰な行為の先で、自分の中の大切なことに気付き、生きることへの希望や気力を獲得していきます。

第二章では、『MR.ROLLING THUNDER』、『赤い河』、『WILD ROAD』の歌詞を見ていき、語り手が到達する大切なこととはいったい何かを作品ごとに分析していきます。

1、『MR.ROLLING THUNDER』(92年)

「長いドライブに疲れてそびえる岩の間をかけのぼった 僕は真っ赤な大地の聖なるワレメの中から生まれた きっと」

赤い大地が描かれる最も初期の作品が、『MR.ROLLING THUNDER』です。
次のフレーズに赤い大地に生きるネイティブアメリカンの信仰がうかがえます。

「太陽の下で祈りを捧げ ヴィジョンを求め踊り続ける とがった稲妻が低い雲に隠れて見守っている」

「太陽」「稲妻」といった、人間を超越した偉大な自然の力を信仰し、救いを求めています。
「ヴィジョン」とは、明確な答え(啓示)のようなものを指すのでしょう。
ここには、様々な迷いのうちにある人間が、偉大な存在に進むべき方向性を求めている姿が描かれています。


「誰が泣いているのか 教えてよMR.ROLLING THUNDER 嵐の海で迷ってる 僕らどこへ向かっていくのか」

主人公はネイティブの生き方に共感し、彼自身もまた同じように、偉大な存在に救いを求めています
主人公が「MR.ROLLING THUNDER」に教えて欲しいこととは、「誰が泣いているのか」ということ。気付かないうちに自分は誰かを傷つけてしまっていたのじゃないのか?それは誰なのか。
そして、自分にとっていったい何が大切であり、どのように生きて行けば良いのか。彼は今、自分が何か大切なことを忘れてしまっている気がしているのです。

「眠れる場所を自ら切り取り値札をつける 盲目なやりとり 余計なものが増えてきて いつしか自分もその中で幻にどっぷり」

「眠れる場所」とは、文字どおり安心できる場所のことです。自分を優しく迎えてくれる人など、自分にとって大切なものの比喩です。
それに「値札をつけ」、「盲目なやりとり」をするとは、自分にとって大切な人やものの価値に気付かずに、まるで売り買いするモノのようにたやすく手放してしまう愚かな行為を意味しているのでしょう。

大切なことには気付かず、自らそれを次々と失っては、必要のない「余計なもの」ばかりが増えてくる。そして「余計なもの」に埋もれているうちに、大切なことを更に見失っていく悪循環に陥ってしまいます。「自分もその中で幻にどっぷり」とあるように、「盲目」になっていたのは主人公自身でした。
大切なことには気付かずに、「余計なもの」「幻にどっぷり」浸かって愚かな行為を繰り返していたのです。

「家をなくし草は枯れ 腹が減らないとわからない 愛する人がどこかに消えてしまわないとわからない」

 本当に大切な人や大切なことには、痛い思いをしなければ気付けない。この反省からは、主人公が調子にのっているうちに、いつしか「愛する人」の大切さを忘れてしまったことがわかります。
そして「愛する人」はそのことに傷つき、彼のもとを去って「どこかに消えてしま」った。主人公は失って初めて、「愛する人」がいかに自分にとって必要であったか気付いたのです。

この旅の初めに、彼は何か大切なことを忘れているような気がしていました。語り手には思い当たるフシはありながらも、自分が「愛する人」の大切さを忘れ、自分が「愛する人」を傷つけてしまっていたことをはっきりと認めることが怖かったのかもしれません。

そして、彼は人間を超越した大きな存在に、明確な答え(「ヴィジョン」)を求めていました。自分をさとし、正しい方向へ導いてくれる存在を必要としていたのです。

そして「真っ赤な大地」の旅を通して、彼は最も大切な者の名にはっきりと気付いていきました。

「叫ぼう喉をつぶすほど 空にむかって君の名を 魂が燃える」

 自分にとって本当に大切なのは「君」だということに、語り手ははっきりと気付いたのです。

「真っ赤な大地」が広がり、「太陽」が彼を照らし出す。時折、低い雲がたれこめ「稲妻」がほとばしる。
日常生活における「余計なもの」が全てそぎ落とされ、ただ己と、己をはるかに超越した大きな存在とが向き合うこの非日常的な世界で、主人公は自分の小ささ、愚かさを実感し、忘れかけていた大切な人の「名」に気付いていったのです

彼は後悔にうちひしがれることはありません。今こそ、彼の「魂は燃え」ています。本当に大切なものに気付いた時、彼は迷いから覚め、生きる気力をいっそう強く蘇らせたのです。

「黒い髪をなびかせて 踊る風の声を聞いてる 雨のち晴れだと」

「真っ赤な大地」を吹き渡る「風」は、彼に「雨のち晴れ」だと教えてくれました。彼は、晴れやかな新たなる日々の始まりを予感しています。
「真っ赤な大地」は、迷える主人公を進むべき方向へと導き、彼を再び生まれ変わらせてくれました。ここから、主人公の再出発が始まります。


2、『赤い河』(94年)
 『赤い河』は、赤い大地を削って流れるコロラド河に稲葉さんがおとずれた時の感慨が歌われているそうです。

「息も絶え絶えにむせび泣いている路上の夜 とまらないいつまでもこの悔し涙 理解りあえない人たちから遠ざかりたい」

 日常生活における人間関係に深く傷ついた主人公は、「理解りあえない人たち」から遠ざかるために、非日常的世界へと旅立ちました。
彼の心の痛みは激しく、「赤い河」の橋の上で命を捨てることさえよぎってしまうほどです。
「引き裂かれた心」は、「誰にも」「救えない」。だから彼は、人間を超越した大きな存在である「赤い河」に救いを求めます。
そして轟々と流れる「赤い河」を見つめているうちに、いつしか安らぎを得てゆきます。

「何億の月日をかけ大地をけずってきた 泥も涙も飲み込んで流れる」

彼の哀しみや、「悔し涙」もまた、「赤い河」は飲み込んでくれたのでしょう。
「赤い河」の偉大さに比べて自分の小ささを実感した時、彼は「小さな人の苦しみもまたちリのよう」と思えるようになりました。
「何億の月日をかけ大地をけずってきた」「赤い河」の偉大さに比べたら、自分はいったいどれほどの存在なのだろうと。

「帰るよ限られた自由を叫びまくろう 赤い河よ」

「赤い河」が膨大な時間を流れてきたことを主人公が実感するとき、同時に自分の命に与えられている時の短さをも実感することでしょう。
そして、自分に与えられている時間が限りあるからこそ、かけがえのない大切な時間であるということに気付いていった
のではないでしょうか。
人には儚い時しか許されていないからこそ、与えられた時のなかで限られた自由を最大限に謳歌しながら、最期まで生き尽くしてみせようという決意へと、 「赤い河」は導いていきます


3、『WILD ROAD』(94年)
歌詞カードに赤い大地の写真がありますので、この曲も赤い大地が意識されている作品だと言えるでしょう。

「I'm on the WILD ROAD ぎりぎりまでいこう 終わりはいつでも側にある 待っていらんないよ根をはって ひたすら進むだけ」

「I want the one thing」とあるように、彼は走り続けた先に、真実に辿り着くことを期待しています。
それにしても「one thing」、真実とはいったい何なのか。それが分からない主人公は、「I want the one thing 抱きしめてくれ」と、旅の途中で出会った「街一番の女」に答えを求めます。

彼女は次のように語りました。

「奪いあい死んでゆく 言葉のせいで憎みあい 私は生きている 誰のものでもない」

 人は「言葉」の些細な行き違いで「憎みあ」ったり、他者と何かを「奪い」あうかのように、醜い駆け引きを繰り返しては、「死んでゆく」。でも、彼女自身はそんなことにはとらわれないと言います。
“「私」は何にもとらわれず周囲に流されず、「誰のもの」にもならない”と。

自分を確立し、あるがままに生きる女性との出会いが、主人公の意識を変えたのでしょうか。
この後、彼は自分自身のあるがままの気持ちに気付いていきます。

「永遠のONE THING 自由に追われ 逃れ逃れ距離をかせぐ 何も手にいれないままで大地に溶けてゆこう」

目的に到達することは、彼にとって旅の終わりを意味しますが、ここには目的に到達することなく「ひたすら進」み続けていきたいという思いがあります。
彼は今、「何も手にいれないまま」いつまでも目的に向かって走り続けていきたいと感じています。
目的に到達することではなく、目的に向かってがむしゃらに駆け続けることこそ、「永遠のONE THING」だということに気付いていったのです。

荒れている道を走り続けることは決して楽なことではないでしょう。
もしも、走ることを終わりにしてしまえば、彼はその厳しい状況から解放され「自由」になれることでしょう。彼は甘えたくなる気持ちと戦いながら、「自由」から「逃れ」るように走り続けます
彼の内に燃えているのは現状に満足することなく、常に先を先を目指す気持ちなのです。

赤い大地は、彼の中にそうしたGREENな気持ちがあることを、はっきりと気付かせてくれました。
駆け続けていった先にいったい何があるのだろうと、常に心躍らせながら走り続ける主人公にとって、毎日が新しいスタートとなることでしょう。

『MR.ROLLING THUNDER』、『赤い河』、『WILD ROAD』の歌詞を見てきました。
主人公たちは非日常的な世界である赤い大地に旅立ち、その広大な大地を駆け続けていった先で、最終的に自分の中の大切なことに気付き、そこからの再出発を決意しています。
 
日常世界の様々なしがらみに埋もれて進むべき方向を見失っていた語り手に、赤い大地は大切なことを気付かせ、再出発の決意へと導いてくれたのです。

第三章 荒野を走り続けた先に に続く

参考作品
『MR.ROLLING THUNDER』(作詞 稲葉浩志 アルバム『RUN』収録 1992)
『赤い河』『WILD ROAD』(作詞 稲葉浩志 アルバム『The 7th Blues』収録 1994)

2003年6月23日に掲載したものを2017年3月15日に再掲載した。

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