稲葉歌詞の月と女性(初期から2003年)

  初期から特に2003年くらいまでの稲葉さんの歌詞において、月は人の心を映し出すものとして描かれることが多くありました。 そのことが最もはっきり示されているのは『今夜月の見える丘に』と『月光』です。 手をつないだら行ってみよう まんまるい月の輝く丘に 誰もがみんな照らし出されて 心の模様が空に映ってる(『今夜月の見える丘に』2000年) 闇の中から柔らかに月は照らし続ける 少しづつ…

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リアルな女性像の登場-『ブルージーな朝』

  稲葉さんの歌詞に描かれる女性はとても魅力的です。 たとえば『Easy come,easy go』の女性は失恋に傷ついているけれど、「別れにすがって生きる女になはれない」と言い切れてしまう強さがあります。 『裸足の女神』は、失恋の痛みを腹におさめて、明日を見ることのできる女性です。 『泣いて泣いてなきやんだら』でも、女性はすごくへこんでしまっているけれども、最後までプライドを守りぬいて自…

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稲葉浩志が「会いたい」と歌うとき

  「会いたい」という言葉が好きだ。 誰かに会いたいと言われるのも、稲葉さんが歌うのを聴くのも好きだ。 「また会いましょう」でも「会えたらいいね」でもなく、「会いたい」と人が言うとき、そこには今すぐに会いたいという切実な思いがこめられていると思うからだ。 ここでは稲葉さんが「会いたい」と歌っている作品について考察していく。 考察の終盤で「Man Of The Match」を軸に稲葉歌詞の…

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「symphony#9」-そのエロス、祈り、畏れ

  「symphony#9」(2016年)の「あなた」は、生々しい肉体を感じさせない存在である。 「止まないsymphony 切ないmelody 朝な夕な弾けて飛び散る」 「あなた」(あるいはその声)は、「symphony」(交響曲)であり「melody」(旋律)であると語り手は繰り返す。 交響曲と旋律はどちらも音楽的要素である。 音楽には形がない。聴くことはできても、手で触れる…

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ぬくもり至上主義

  稲葉さんの歌詞においては、言葉も約束も不完全なものであり、何よりも手触りやぬくもりが信じられてきた。 稲葉歌詞は、ほとんどぬくもり至上主義と言ってもいいほど、ぬくもりは最上級のものとして示されている。 「CHUBBY GROOVE」(2017年)収録の「AISHI-AISARE」で、語り手は「君」の「ゆずれない感触」を取り戻そうとしている。 感触とは、手触りであり、ぬくもりを感じることだ。…

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「シラセ」試論 内在化する「あなた」

  知らせを聞いて、人は“ああ、そうなんだ、”と今まで気づかなかったことに気付きます。 シラセとは、気付きをもたらすものです。 「シラセ」の語り手は、シラセを受け取り、あることにはっきりと気付いていきます。 「陽は昇り 何もない朝 風が吹いて 何か囁いた なぜだろ 感じてる あなたのぬくもりを これは淡いゆめなの?」 時は「朝」、後半に「揺れるカーテン」「遠くから聞こえるクラ…

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「哀しきdreamer」二項対立の価値判断を越えて

  稲葉さんの歌詞の内容的な特徴を挙げよ、と言われたら、“あるがまま志向”と、“ぬくもりの完全性”と、“主体変容の意志”、そして“赤い大地への憧れ”と私なら答えます。 これらが稲葉さんの歌詞の核となる感覚だと考えています。 『哀しきdreamer』には、ものごとを価値判断することを否定し、ありのままに受け止める姿勢(あるがまま志向)が提示されています。 稲葉さんの歌詞のなかでも、かなり…

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「LOVE PHANTOM」-悲劇の発端とその様相

  『LOVE PHANTOM』(96年)はファンがあっと驚くことを狙って製作された曲でした。 『“BUZZ!”!THE MOVIE』というライブビデオでは、様々な演出を凝らした『LOVE PHANTOM』の演奏シーンを見ることができます。 オペラ座の怪人のような衣装を稲葉さんが着て、高いところに昇っていきます。 まだ見たことのない方々にネタバレにならないよう、これ以上詳しく書くことは控えてお…

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「志庵」-主体変容の意志 己から惑星へ

  稲葉さんの歌詞はまず自分が変わろうとする姿勢、主体変容の意志が示され続けてきました。 「自分のせいだと思えばいい そして自分を変えればいい」(「Time Flies」09年)はその最もわかりやすい一つの例です。 2017年現在もそれは変わりません。稲葉さんの歌詞では、何か困ったことがあったとしても、決して人を変えようとせず自分が変わるし、人のせいではなく全部「自分のせい」、とされてきまし…

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「FRIENDSⅡ」―ドアをめぐるオムニバス

  「FRIENDS」はアルバム全体で一つの物語を形成していますが、「FRIENDSⅡ」(96年)にはそうしたコンセプトはありません。 しかし、一曲目「FriendsⅡ」は、「FRIENDS」の「Prologue Friends」がアレンジされたものであり、このことは「FRIENDSⅡ」がある点においては「FRIENDS」を引き継いでいることを物語っています。 ある点とは、冬という季節です。 …

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「静かな雨」―訳アリな大人のファンタジー

  『静かな雨』(作詞 稲葉浩志 マキシシングル『KI』収録 VERMILLION RECORDS 2003) はじめに 誰もが一度は、日常のふとした時に、楽しい物語を思い描いたことがあるのではないでしょうか。 たとえば私は、ファンクラブで予約したライブのチケットを待っている時などに、もしもM&Gに当たったらB'zのお2人に何を話そう!なんて楽しい空想をします。 これではただの妄想、かも…

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「マグマ」という名の衝動―マイナスからゼロへのシフト

  稲葉さんは多くを語らない。だが、稲葉浩志の作品は饒舌に語っている。 もちろん、歌詞の内容がノンフィクションであるということではない。 しかし、ファーストソロアルバム「マグマ」には稲葉さんに固有なるものがより濃厚に、より親密な形で表れているように思う。 セカンドアルバム「志庵」リリース時、BS特別番組におけるインタビューで稲葉さんは、「マグマ」制作時には心の底からまさにマグマのように…

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「CHUBBY GROOVE」考察後編-雄風を感じる時

  前回、「CHUBBY GROOVE」の語り手は、ローからハイにスイッチを切り替えるために、意識的に方法を選択していると書いた。前回は主に「BLINK」を中心に考察した。(「CHUBBY GROOVE」考察前編-眠らない語り手) 今回は語り手のとった方法を具体的に見ていく。 1、寝ない。(「SAYONARA RIVER」「OVERDRIVE」「BLINK」) 2、やめる(捨てる)。 …

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「CHUBBY GROOVE」考察前編-眠らない語り手

  寝たり起きたりしているなあ。 これが、「CHUBBY GROOVE」を聴いた時の最初の印象だ。 睡眠に関するワードや、睡眠を想起させる状況が描かれている曲が多い。 “あ、起きてる”とか“今度は眠そう”とか、“目を覚ましたがってるなあ”なんて思いながら聴いていた。 こんなことを言うと誰かに怒られるかもしれないが、歌詞についてはかなり躁鬱的なものもあるように感じた。 躁鬱と言って悪けれ…

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「BURN」― 滅びの美学

  稲葉さんは時々お坊さんのような歌詞を書く。 それが私は好きだった。 あるがままという考え方だったり、「どんなジャンルもない」って考え方には、仏教的なものの考え方や感じ方と通底するものがある。 「夢だろうすべては生まれてくること死ぬこと」なんてのもそうだった。 稲葉さんがどこまで意識しているのかどうかは分からないけれど、博学な稲葉さんのことだし、今回は「あえて」ってところがあるような気…

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「THE CIRCLE」-破滅と再生の技 潜在的可能性への旅

  B'zの曲には、『ヒミツなふたり』の「あ~しょうがないね」など、へんてこなコーラスがいくつもあります。 歌詞にするにしては斬新と思えるような言葉を音楽に乗せるのは、稲葉さんのお得意の作詞法ですよね。 今回のアルバム、『THE CIRCLE』収録の『白い火花』の“もったいないね~”というコーラスを聞いた時も、私はやっぱり相当へんてこな感じがしました。 FM FUJIのサタデーストームとい…

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「ARIGATO」―宿命の受容

  『ARIGATO』(2004年)は、愛する者の存在により、自分の宿命を受け入れていく物語だ。 宿命とはこの場合、語り手が「僕のゆく道」を進んでいくことだ。 言うまでもなく「道」とは、自分がどのように生きていくかということである。 これまで稲葉さんの歌詞には、“自分の道を歩むこと”について何度も書かれてきたが、 稲葉歌詞では、どんなに心が通じ合った人でも、同じ「道」を進んで…

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「shower」「TINY DOROPS」「Okay」に見る死生観

  稲葉さんのなかで、死と、水の小さな粒は、意識的にであれ、無意識にであれ、関連づけられたものなのだろうか。 「TINY DOROPS」は2009年のアルバム「MAGIC」に収録されている。 この曲で、死者は「美しい丸い粒」、「しずく」と表現されている。 97年に「Shower」で、死について(おそらくこのとき初めて)稲葉さんが歌ったときは、「優しく僕を叱りながら 小さな粒がふりそそぐ…

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『The 7th Blues』―喪失からの再生

  『The 7th Blues』は私が最も愛するアルバムだ。 当時のメロディラインや、ブラスサウンドを多用したアレンジ、 そして稲葉さんのお腹の底から叫びをあげるようなヴォーカルなど、なんといっても楽曲の魅力があるけれど、 ここでは『The 7th Blues』の歌詞について語ってみたい。 7thと同時期の『MOTEL』と『Mannequin Village』も視野に入れる。 『Th…

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赤い大地への憧れ 第三章 荒野を走り続けた先に

  第二章では、『MR.ROLLING THUNDER』、『赤い河』、『WILD ROAD』の歌詞について考察しました。 第三章では、『RUN』、『愛なき道』、『arizona』を見ていきます。 『RUN』と『愛なき道』は、主人公が一人で大地を駆けるのではなく、身近な他者と共に駆けています。 荒野を走り続けた先に、主人公にとって大切な何かが見えてくるという構造は、第二章で見てきた曲と共…

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